朝から、なんだか舞台袖がざわついてるような、嫌な予感。
いつもの利用者さんのお宅でチャイムを鳴らすと、ドアを開けた瞬間から空気がピリついている。
それもそのはず、ご家族がソファにぐったり横になっているじゃないですか。
「ごめん、、、急に具合が悪くて……」
そう言われた瞬間、私の頭の中で非常ベルが「ジリリリリ!」と鳴り響く。
ただでさえ、利用者さんは日々の安定したリズムに支えられている方。
「ご家族が体調不良」という特大イレギュラーが飛び込んだら、そりゃもう不安が伝染します!!
案の定、「どうしたんですか?なにがあったんですか?」と利用者さんも落ち着かない様子。
いつもと違う空気を察したのか、その声は少し上ずっている。
私は、「大丈夫ですよ、ちょっと休んでもらいましょう」と、可能な限り穏やかなトーンで返す。
でも、まるで生徒たちの前で「落ち着いて」と言う担任の先生が、内心はヒヤヒヤしているようなもの。
表情は笑顔をキープしながら、頭の中は
「次にやるべきことは?」
「この混乱をどう鎮める?」とフル回転。
さらに困ったのは、利用者さんが「今日のお昼ごはんはなんだっけ?」と聞いた時。
(今、聞く???聞くこと????)
いつもならサラッと答えられるところ、動揺で記憶が曖昧になってしまい、「ええっと……」と一瞬言葉に詰まった。
それを見た利用者さんは、さらに不安そうな顔をする。
「どうして答えられないの? なにかトラブル?」とでも言いたげな目つき。
冷や汗が頬を伝う。
ここで焦りがピークに達すると、全員がもっとパニックになる。
それだけは絶対に避けなければ。
だから、一呼吸。
「すみません、少しメモを確認しますね。今日はちゃんとご用意しますから、ご安心くださいね。」と、
カチコチになった笑顔を少しほぐして返事する。
すると、利用者さんの瞳の揺らめきが、ほんの少しだけ和らいだような気がした。
そう、こういう時こそ、落ち着きを装うことで場を鎮めるしかない。もはや即席の調停人だ。
しばらくして、ご家族が水を飲んで少しラクになり、
利用者さんも「さっきはごめんね、ちょっと不安になっちゃって」と小さく笑う。
私も「こちらこそお待たせしてすみません。お昼もちゃんと準備しますからね」と返す。
ほんの数分前までギラギラしていた空気が、嘘みたいに穏やかな色を取り戻していく。
仕事柄、こういう「予想外」は日常茶飯事。
それでも、どんな小さな混乱にも真摯に向き合って、なんとかしのいでいく。
あとで帰り道に思い返すと、「よくあの瞬間に踏ん張ったな、私!」と、妙な達成感がこみ上げるのです。
今日も無事に、予定外のハプニングを越え、穏やかな笑顔が戻ってきた。
それだけで、私の中で「今日のお仕事、ミッションコンプリート!」と小さな旗が立つのでした。
漫画作者 たっきー